この妄想は2008年の時点で 蟻編のアフターとして考えていたものです
漫画にできればいいなあと思ってたんだけどなかなか漫画としてまとまらないので
ここでテキストの形で吐き出します
これを思いついた頃はまだゴンとピトーがにらみ合っていましたw
それを踏まえて読んで下さい





















それは彼女を守らんとする彼の力か
それとも彼女自身の秘めたる力か
どちらにしろそれは突然起こった

瞬間彼女の見えざる目は確かに見た
崩れゆく城の 落ちてくる天井の隙間から
手を差し伸べんとする少年たち
そしてその数歩先 瞬きもせず自分を見据える異形の者

まだ彼女が光を感じていた頃に絵本で見た怪物のような姿のそれ
だが恐怖は感じなかった
初めて見るそれが ずっと彼女を案じていた彼の人だと分かったから
彼女もまた手を伸ばす
少年たちの方ではなく 異形の者へ 微笑みと共に
しかし願いは叶わなかった
ぐらりと足下が揺れたと思った瞬間
彼女は光に飲まれていた
身体も 意識も



目をさました彼女の前にあったのはいつもの暗闇だった
あの光景はなんだったのだろう?
一体自分はどうなってしまったのだろう?
あの人はどこにいるんだろう??
それを探るべく耳を澄ます

聞こえてきたのはたくさんの足音
威勢の良い商人の掛け声
子供が風を切る音
何故?
自分は今さっきまで城の中にいたはずなのに
音 匂い 空気の流れ
彼女が感じることの出来る感覚の全ては
今自分が街の喧噪の中にいることを伝えていた

もしかしたら思っているよりも意識を失っていた時間が長いのだろうか
一体どれくらい経っているのだろう

あの人は無事なのだろうか

会いたい
あの人に会いたい
彼女は杖も持たぬまま彷徨った



「聞いたか?東ゴルトーの総帥が死んだって」
「ああ…ついにか」
「結局次期総帥は誰なんだ?」
「ディーゴだろ。前総帥の一番のお気に入りだったからな」
「あの国もまだまだ災難だなあ」



東ゴルトー それは私の故郷
ディーゴ それは偉大なる総帥様

総帥様?

違う ディーゴはもういない
私の知っている総帥様(あの人)はそう言った
あの人が嘘を言うはずがない
一体この人たちは何を言っているの?



彼女は 既に馴染みの店の女の話に移っていた男達に詰め寄った
男達は彼女の言っている意味がわからなかった
「何言ってんだ嬢ちゃん、ディーゴは昨日総帥になったばかりだろ?」
話がかみ合わない この人たちは何を言っているの?
いらつく彼女の耳に 街頭テレビだろうか ニュースを読む声が聞こえた
ニュースキャスターの滑らかな言葉が 今日の日付を告げた

それを聞いた途端彼女は固まる
一方的に訳の分からない事を言い出し また一方的に押し黙った彼女を 男達は訝しげに見ていた



その日付は 自分が生まれる前のものだった



時を超え 場所さえも超える
そんなことがあるんだろうか
自分はまだ意識を失ったまま夢を見ているのではないだろうか
きっとそうに違いない 早く覚めなければ
目が覚めたらきっとあの人がいるに違いない

その願いも虚しく 時はただ流れ続ける
彼女の時間だけが止まっていた
その外では何事もなかったように人々が行き交う
男達が互いに顔を見合い また彼女を見下ろしたその時
彼女は声を上げて泣き始めた
何が起こったのかわからない
ただ分かるのは もうここにあの人がいないということ
もう会えないということ
自分がどうなろうと構わない
どうせ家族にすら疎まれていたのだから

あの人がいない

ただそれだけが悲しくて まだ名も知らぬ彼の人を呼び続けた



困ったのは男二人
まだ幼さの残る少女が泣いているその側で立ち尽くす
通り過ぎる人々の視線が痛かった
そして男の一人が決めた
「…とりあえず メシ食おうや」



食卓に並ぶ食事を前にしても 彼女は涙が止まらなかった
男達が食事をしている間 彼女は途切れ途切れに話した
彼女が生まれた時 既にディーゴは総帥だったこと
彼女が軍儀の頂点に立ったこと
城に呼ばれたこと
そこにいた総帥はディーゴではなかったこと
命じられるまま 日夜軍儀に明け暮れたこと
賊が城を襲ったこと
最後に見えぬはずの目が彼の姿を捉えたこと
城が崩れ 光に包まれ 気がついたらここにいたこと
思いつく全てを彼女は話した
男の一人は始終複雑な顔をしていたが
もう一人の目は真剣そのものだった

混乱した頭で 何度も同じ事を繰り返しながら
ようやく彼女の話は終わった
しばし沈黙が流れた
彼女は語り続ける中で悟っていた
この世界で自分ただ一人が異質なのだと
どんなに語り尽くしても この世界の人々に自分の言葉は届かない
ただでさえみすぼらしい開かずの女の戯れ言に誰が耳を傾けようか
だが目の前の男は 沈黙の後そっと彼女の頭に手を置いて言った

 そりゃ 大変だったなあ─

どんなに見開いても決して見えることはないが
彼女にはその男が微笑んでいるのが 手に取るように分かった
彼女の時間が動き始めた






男は─といってもまだ少年の面影を残す若者は
彼女を旅に連れて行った
右も左も分からない彼女にとって その男はたった一つの拠り所だった
それ以上に 彼女は彼に不思議な懐かしさを感じていた

男は彼女に色々な事を教えた
本が読めぬというのならと 子供向けの小説から分厚い専門書まで全て読み聞かせた

「お前はバカなんじゃない 知らないだけだ」

そう笑いながら彼が言った 彼女も笑った
男が言う通り 彼女は砂漠に水が染みいるかのごとく知識を取り込んでいった
ゴミとさえ言われた少女は 経験豊かな老人が感心する程の識者になった



二人が男と女の関係になったのは 風が木々を揺らすかのように自然なことだった






彼女は子を身ごもった
幼い頃の環境が彼女の身体を蝕んでいたのか 産むのは難しいと医者に言われた
それでも彼女は産むことを選んだ そうしなければいけないような気がした

無事子供は生まれ 母である彼女も助かった
だが今までのように男について歩くことはできなかった
子供は男の子だった
父親によく似た 元気な子だった

彼女は我が子を抱いたその瞬間 全てを悟った
男に感じた懐かしさの意味
そして我が子の運命と 自分自身の終わりを



ある日彼女は男に言った

「この子にプレゼントをあげましょう」

僅かにゴルトー訛りの残る標準語だった
彼女の夫になり一児の父となった男は 面倒くさそうに拒否したが彼女は笑顔でそれを許さなかった

彼女が我が子への贈り物に選んだのは「声」
今はまだ物言えぬ我が子が二本の足で立ち 大地を駆け回り そしていずれ父の後を追うようになる
そんな未来の彼へのメッセージ

扉の向こうから男の 未来へ向けた言葉が聞こえる
どんな顔で言っているのだろうと思い 声を殺して笑った
一度も見たことのない顔だが 易々と想像できた
やがて照れくささを隠せないまま男が扉を開けた
手にしたカセットデッキを渡すと そそくさと出て行った
扉が閉まり 再び一人になった彼女は 一息ついて言葉を紡ぎ始めた



あなたがこれを聞く頃 私はこの世にいないでしょう
いいえ 少し違う
私は新しい「私」として あの国にいるのだから
あなたを知らない少女の「私」が

もしもこれを聞いたなら どうか一つだけお願いを聞いてください
あなたはこれから 父と同じ道を辿るでしょう
そして 近い将来 「ある人」と出会うことになる
…いえ その人は「ひと」ではなかったのかもしれません
けれどその人はとても優しく とても偉大で
そして 今なら分かる
きっと とても寂しい人
私がその人と過ごしたのは ほんの数日のこと
けれどその数日は 私にとってかけがえのない時間でした

その人とあなたはきっと敵同士
その理由も今ならなんとなく理解できる
それでも 私にとってあの人は誰よりも大切な人
とても優しい人だから 突然いなくなった私をきっと心配している
だからどうか伝えてください



私はあなたに会えて本当に幸せでした
あれから幾年が過ぎ 女となり 母となり
昔は想像もできなかったような穏やかな日々を過ごしたけれど
あなたと共に昼夜を忘れ ただひたすらに駒を打ち合った
一生の内の ほんの瞬間でしかないあの日々が

私の一番の宝物です─




カセットデッキをオフにする
隣に眠る幼子が寝返りをうった
彼女はその頬にそっと触れる

本当はこんな言葉聞かない方がいいのかもしれない
この子のためにも あの人のためにも
けれど伝えたい きっとあの人は待っているから

だから托そう 私の身体と心を半分ずつ受け継いだこの子に
もしも伝わらないならそれでいい
この子の選択は私の選択でもあるのだから
そう思いながら優しく撫でた

あの日自分に手を差し伸べていた少年の一人と同じ気を纏うその子を




END













「私を殺すならどうか軍儀で」
そういったコムギを見て
「この子はゴンの女版かいな」と思って出来た妄想です
タイムパラドックスと平行世界は私の基本w
よくある設定だけど好きなんだから仕方ない。

必然的にコムギが王以外の人と結ばれた形になっておりますが、
カップリングの概念よりも「コムギ」と「ゴン」の関係を考えた時に生まれた妄想だと思って下さい。
つまりあれだ
王×コムギ派の人 石投げないで下さい…

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